備前焼は釉薬をかけないことから、土味がそのまま表面に現れます。刺身のように、素材の良し悪しが、そのまま表れやすい焼き物と考えます。従って、如何に備前の美しい焼けを出すかを念頭において、土選び・土つくりを行うことが大事だと思っています。
◎原土
ひよせについても、中心部ではかなり掘り尽されており、現在は良い土を求めて、瀬戸内沿岸部や中北部の山間部まで、採取する地域が拡大しています。
地域にかかわらず可能性のある土は試験焼してみて、期待が持てる場合は使用するのが、私の基本姿勢です。私は、岡山県境に近い兵庫県に住んでいますが、このあたりの瀬戸内寄りの土も、かなり備前土に近いと思っています。
一種類の原土を用いる場合を単味といいますが、いくつかの土をブレンドする場合もあります。私は、新しい焼けの追求のため、従来からの土に加え、積極的に新しいブレンドも試していく姿勢です。
通常、原土は掘り出してすぐに使うことはなく、風雨にさらして、土を枯らしてから使用します。掘ってすぐの若い土は、割れやすかったり変形が大きかったりするので、私は数年さらした土を用いています。
雨風に土をさらすことなく、屋根の下で保管する方もいますが、私は外で草がぼうぼうに生える状態にしてさらしています。草が根を張った方がいいという人と、そうでないという人がいます。私は、根を張るまでさらした土の方が、良い焼けになると思っています。
◎選別
水簸と呼ばれる選別方法があります。原土を水につけて撹拌し、粒子の大きさによって沈殿スピードに差があることを利用して、粘土の細かさを調整・選別する方法です。人力をあまり使わず効率的に大量生産ができ、粒子の大きさをそろえることができます。石も混ざらないので、轆轤で引きやすくなります。
しかしながら二つの理由で、現在私は水簸土を作っていません。第一に、粒がそろってしまうことで、のっぺりとした均一な表情の土味になりやすいからです。第二に、変形が大きくなりがちで、水簸しない方が作品の強度が高くなると実感したからです。
ただ、細工物とかには水簸の微粒子土が向いていると考えているので、将来的には水簸土も用いてみたい思っています。
◎粘土の水分調整
練が終わった粘土は、一般には電動轆轤(ろくろ)を使って作品をひきます。私の場合は、一部の小物を除き轆轤びきは行いません。轆轤の方がずっと効率的でたくさん作れるのですが、紐作りか板づくりをしています。その理由は、第一に紐作り・板つくりの方がより精密な成形が可能であること、第二に焼き上がりの土味が良いこと、第三により頑丈な焼物になることです。
中壷(高さ40cm位)を作る場合、轆轤であれば10~20分で完成できると思います。紐作りの場合、一日に紐を二段位しか積めませんから、完成までに7~10日位はかかります。随分な手間となりますが、実際に完成品を比較すると、私の場合どうしても紐作りを選びます。
薄い皿の場合、轆轤で伸ばして作ると、変形しやすく強度もかなり落ちてしまいます。板を叩きのばして成形する方がずっと強くなり、土味もよくなると実感しています。
備前焼の醍醐味はここからです。非常に厳密に狙った窯詰をしても、毎回窯焚きの条件は異なるわけですから、狙った通りにいかないという楽しみが、おまけとして付きます。うまくいけば、予想以上の出来となり、失敗すれば予想を下回る、たまには、予想できないような焼けがでるわけです。例えば赤を狙った場合、思いもかけない鮮やかな緋襷となり、びっくりしたことがあります。
私は窯が大きくなるほど、想定外のレンジが広がると思っています。
◎薪・割木の準備
私の窯の場合、束木に換算すると、一回の窯焚きで2500束くらい必要となります。高効率の小型の登り窯でも、500~1000束くらい使うと思います。二回分以上のストックがあれば万全ですが、高コストのためなかなか予備をそろえられないのが現実です。
人によってはわざと湿った薪を使う人もいます。私は、基本は乾燥薪を用いますが、面白い焼けを追求するため、ある時点においては湿った薪を使いたいとも思っています。今後、実験してみようと考えています。
歴史をさかのぼると、松ではなくてどんぐりのなる雑木を用いていることがわかります。松の黄色い胡麻と違い、深緑の胡麻となります。古備前、古越前には緑の胡麻の作品も見られます。森林資源が少なくなっている現在、余裕のある雑木の使用も有用だと考えています。
リサイクルの観点からは、間伐した杉材、柱を製剤した残りの甲板などの利用、古い民家を壊した際の材の利用なども考えられます。これは有望な資源と思います。特に民家の松古材は高品位のものがあり、新規に切り倒した松よりも素晴らしいものがあります。
薪で窯を焚く場合、現在では初期においてガスを併用するか、最初から最後まで薪で焚くかの選択があります。私は、ある確信があるのですべて薪でたきます。研修所時代は何回か併用でたく機会を得ました。それはそれで良い勉強になったと思っています。
窯の温度が400℃近くに達するまでは、コンピューター制御の自動運転で、ガスバーナーで焚くケースが、備前では結構あります。陶芸家にとっては、窯詰で心身削った後に、後半の窯焚きに備えて、体力を温存できるとあって重宝がられています。
しかしながら、この初期を薪で焚くかどうかが、焼けに大きな違いをもたらすと私は考えています。私の窯では、400℃に達するまでに6日くらいかかります。おとなしい窯焚き時期ですが、全工程が2週間であると考えると、重要であると考えています。ちなみに、ガス併用の場合は、2,3日で400℃まで上げることが多いと思います。
◎くゆし
最初の二日間は温度を上げることなく、前面下側の口(下口)から、窯の中に煙と熱風だけを入れるくゆしを行います。単純作業で飽きが来ますが、この時期に多くのすすで作品をコーティングし、割れにくくしていると思われます。昔の備前では、窯焚きを見に行ったら煙たくてしょうがなかったと聞きますが、くゆしの工程を省くことは体力的には楽かもしれませんが、焼物のクオリティーを下げることに繋がると感じています。ある人は、開始二日目に窯焚きを見学に来て、窯内温度が気温とあまり違わないことに驚きますが、大事な工程です。大変ですが、私はくゆしを省くべきではないと考えています。
くゆしには、もう一つ重要な役割があると考えます。大きな窯では、とても細かい胡麻が微妙に作品につくものがあります。私は、この景色が大好きですが、このような細かい微妙な景色は、くゆしの際に形成されると予測しています。くゆしをなくし、ガス併用した場合は、この景色が見られることはないと思います。
◎あぶり
◎中焚き
◎本焚き、横焚き
窯の前面が1150℃に達しても、後方の八番付近は600℃位です。前方が焼きあがっていても、後方はまだまだです。縦に長い窯なので、順次横の焚口を開けてねらしを行い、全体を焼き上げていくのが横焚きです。
◎火止め
火止めの時点で、確実に狙ったように胡麻が溶けていることが重要ですが、窯の場所ごとに微妙な温度差があり、全体を完璧にすることはなかなか難しいと思います。かといって逆に焼きすぎると、作品が膨れるなど失敗に終わるため、微妙な加減が重要になります。
私は、窯焚きの初期にガスバーナーを使用することには反対ですが、最後の微調整にガスバーナーを使用できるなら、有効であると考えています。
備前土は、急速に冷却すると割れることが多いので、いわゆる冷め割れを防ぐためにゆっくりと覚まし、窯出しをします。