備前焼の製作工程

土つくり
備前焼は釉薬をかけないことから、土味がそのまま表面に現れます。刺身のように、素材の良し悪しが、そのまま表れやすい焼き物と考えます。従って、如何に備前の美しい焼けを出すかを念頭において、土選び・土つくりを行うことが大事だと思っています。

◎原土

岡山県伊部地区のひよせと呼ばれる、田圃の地下三~五メートルくらいにある粘土層を掘り出して使うのが一般的です。しかし、鎌倉・室町期においては、表層に露出した粘土層をあまり加工することなく使っていたのではないかと思っています。この時期の土味は素朴で、自然でかなり大きな石ハゼも見られ、個人的にはとても共感できます。現在の備前焼の土味とは、明らかに違うと感じています。残念ながら、現在ではそのような原土は手に入らないので、地下のひよせに手を加えていくしか、再現の方法はないと思っています。

ひよせひよせについても、中心部ではかなり掘り尽されており、現在は良い土を求めて、瀬戸内沿岸部や中北部の山間部まで、採取する地域が拡大しています。

地域にかかわらず可能性のある土は試験焼してみて、期待が持てる場合は使用するのが、私の基本姿勢です。私は、岡山県境に近い兵庫県に住んでいますが、このあたりの瀬戸内寄りの土も、かなり備前土に近いと思っています。

一種類の原土を用いる場合を単味といいますが、いくつかの土をブレンドする場合もあります。私は、新しい焼けの追求のため、従来からの土に加え、積極的に新しいブレンドも試していく姿勢です。

通常、原土は掘り出してすぐに使うことはなく、風雨にさらして、土を枯らしてから使用します。掘ってすぐの若い土は、割れやすかったり変形が大きかったりするので、私は数年さらした土を用いています。

雨風に土をさらすことなく、屋根の下で保管する方もいますが、私は外で草がぼうぼうに生える状態にしてさらしています。草が根を張った方がいいという人と、そうでないという人がいます。私は、根を張るまでさらした土の方が、良い焼けになると思っています。

◎選別

さらした原土の塊を乾燥し、木槌を用いてある程度小さくなるまで砕きます。その際、草の根などの有機物、ごみ、石などを取り除きます。どのくらいのまで取り除くかは、どのようなものを作るかによって異なり、一般に大物ほど粗目に選別します。うちの場合、用途によって三・四種類の異なる選別を行っています。通常は直径五ミリより大きいものは、取り除いています。選別した限度は、フレットと呼ばれる石臼のような機械で粒子状にします。

水簸と呼ばれる選別方法があります。原土を水につけて撹拌し、粒子の大きさによって沈殿スピードに差があることを利用して、粘土の細かさを調整・選別する方法です。人力をあまり使わず効率的に大量生産ができ、粒子の大きさをそろえることができます。石も混ざらないので、轆轤で引きやすくなります。

しかしながら二つの理由で、現在私は水簸土を作っていません。第一に、粒がそろってしまうことで、のっぺりとした均一な表情の土味になりやすいからです。第二に、変形が大きくなりがちで、水簸しない方が作品の強度が高くなると実感したからです。
ただ、細工物とかには水簸の微粒子土が向いていると考えているので、将来的には水簸土も用いてみたい思っています。

◎粘土の水分調整

粉にした土は、適量の水を加え、どべと呼ばれるどろどろの状態にします。大型植木鉢など素焼きの鉢に布を敷き、どべを注ぎ込んでその布でくるみ、時間をかけて徐々に水分を抜いていき、適当な硬さになれば完成します。完成した粘土は、水分を逃がさないように包んで室で熟成します。熟成期間は様々で、残念ながらどのくらい寝かすのがベストかは、はっきりわかりません。京都などでは先代の作った土を使用する陶芸家もいますから、かなり長くてもよいと思われます。実感としては最低数週間、できれば数か月寝かしたものが、使いやすいと思います。



成形

寝かした粘土は、荒練、菊練と二段階に分けて手で練り、成形に適した状態にします。粘土内の空気を抜き、粘りを出して割れやひびが入り難くするための調整作業です。備前焼:成形電動式の土練機もあり、常圧タイプの循環式は有用と考えます。真空式もありますが、私は使いません。真空式を使うと、ほぼ空気が抜け均質な粘土ができます。轆轤成形はずっとやりやすくなりますが、焼き上がりの土味の魅力が乏しくなると感じるので、使用しないことにしています。研修所時代は、真空度連記のおかげで簡単に多くの土がつくれ、たくさん練習ができ感謝していますが、いざ作品用となると私の場合は満足いかないので、使用していません。

練が終わった粘土は、一般には電動轆轤(ろくろ)を使って作品をひきます。私の場合は、一部の小物を除き轆轤びきは行いません。轆轤の方がずっと効率的でたくさん作れるのですが、紐作り板づくりをしています。その理由は、第一に紐作り・板つくりの方がより精密な成形が可能であること、第二に焼き上がりの土味が良いこと、第三により頑丈な焼物になることです。

中壷(高さ40cm位)を作る場合、轆轤であれば10~20分で完成できると思います。紐作りの場合、一日に紐を二段位しか積めませんから、完成までに7~10日位はかかります。随分な手間となりますが、実際に完成品を比較すると、私の場合どうしても紐作りを選びます。

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薄い皿の場合、轆轤で伸ばして作ると、変形しやすく強度もかなり落ちてしまいます。板を叩きのばして成形する方がずっと強くなり、土味もよくなると実感しています。



窯詰

完成した作品は、十分に乾燥し窯詰を行います。大物になるほど、じっくりと歪みなく時間をかけて乾かします。タイル状のものは反りやすく、まっすぐ乾かすためにいろいろな技法を用います。この時点でひびが入った場合は、すべて取り除き、土に戻します。窯詰の最大のポイントは、如何に美しい景色を焼き付けるかというところにあります。備前焼は人工的ではなく自然に景色を付けると一般に言われますが、偶然の産物ではありません。基本は厳密に計算した窯詰となります。窯には、窯変がとれる場所、緋襷が鮮やかに出る場所、胡麻が垂れる場所などほぼ決まっています。白い色を出す、黒くする、赤くする方法も、過去の長い歴史の中で培われてきています。自分なりに、より美しい焼けを狙い厳密に計算して詰めます。実際に窯の中の棚において、位置を微妙に調整したり、障害物を置いて空気の流れを変えるようにしたり、歴史と経験にのっとって窯詰します。楽しいひと時でありますが、埃にまみれた汚い環境で、重いものを複雑に組み合わせるという重労働でもあります。

備前焼の醍醐味はここからです。非常に厳密に狙った窯詰をしても、毎回窯焚きの条件は異なるわけですから、狙った通りにいかないという楽しみが、おまけとして付きます。うまくいけば、予想以上の出来となり、失敗すれば予想を下回る、たまには、予想できないような焼けがでるわけです。例えば赤を狙った場合、思いもかけない鮮やかな緋襷となり、びっくりしたことがあります。

私は窯が大きくなるほど、想定外のレンジが広がると思っています。

◎薪・割木の準備

薪準備:フランス人研修生と

窯焚きを成功させる第一条件は、事前に十分な量と質の薪割木を準備しておくことです。現在では、松の割木が主流となっています。通常、半年前までに必要量を確保します。雨風に何か月かさらしつつ、天日で乾かします。その後に屋根の下にいれ、完全乾燥します。歴史は、まず雨に濡らすという、乾燥と反対のひと手間が重要なことを示しています。

私の窯の場合、束木に換算すると、一回の窯焚きで2500束くらい必要となります。高効率の小型の登り窯でも、500~1000束くらい使うと思います。二回分以上のストックがあれば万全ですが、高コストのためなかなか予備をそろえられないのが現実です。

人によってはわざと湿った薪を使う人もいます。私は、基本は乾燥薪を用いますが、面白い焼けを追求するため、ある時点においては湿った薪を使いたいとも思っています。今後、実験してみようと考えています。

歴史をさかのぼると、松ではなくてどんぐりのなる雑木を用いていることがわかります。松の黄色い胡麻と違い、深緑の胡麻となります。古備前、古越前には緑の胡麻の作品も見られます。森林資源が少なくなっている現在、余裕のある雑木の使用も有用だと考えています。

リサイクルの観点からは、間伐した杉材、柱を製剤した残りの甲板などの利用、古い民家を壊した際の材の利用なども考えられます。これは有望な資源と思います。特に民家の松古材は高品位のものがあり、新規に切り倒した松よりも素晴らしいものがあります。



窯焚き

窯薪で窯を焚く場合、現在では初期においてガスを併用するか、最初から最後まで薪で焚くかの選択があります。私は、ある確信があるのですべて薪でたきます。研修所時代は何回か併用でたく機会を得ました。それはそれで良い勉強になったと思っています。

窯の温度が400℃近くに達するまでは、コンピューター制御の自動運転で、ガスバーナーで焚くケースが、備前では結構あります。陶芸家にとっては、窯詰で心身削った後に、後半の窯焚きに備えて、体力を温存できるとあって重宝がられています。

しかしながら、この初期を薪で焚くかどうかが、焼けに大きな違いをもたらすと私は考えています。私の窯では、400℃に達するまでに6日くらいかかります。おとなしい窯焚き時期ですが、全工程が2週間であると考えると、重要であると考えています。ちなみに、ガス併用の場合は、2,3日で400℃まで上げることが多いと思います。

◎くゆし

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穴窯ともいわれる直炎式登り窯には、と呼ばれる窯の前面に二か所、さらに側面に多くの焚口があります。横焚きが始まるまでの間は、前面の焚口から薪をくべていきます。

最初の二日間は温度を上げることなく、前面下側の口(下口)から、窯の中に煙と熱風だけを入れるくゆしを行います。単純作業で飽きが来ますが、この時期に多くのすすで作品をコーティングし、割れにくくしていると思われます。昔の備前では、窯焚きを見に行ったら煙たくてしょうがなかったと聞きますが、くゆしの工程を省くことは体力的には楽かもしれませんが、焼物のクオリティーを下げることに繋がると感じています。ある人は、開始二日目に窯焚きを見学に来て、窯内温度が気温とあまり違わないことに驚きますが、大事な工程です。大変ですが、私はくゆしを省くべきではないと考えています。

くゆしには、もう一つ重要な役割があると考えます。大きな窯では、とても細かい胡麻が微妙に作品につくものがあります。私は、この景色が大好きですが、このような細かい微妙な景色は、くゆしの際に形成されると予測しています。くゆしをなくし、ガス併用した場合は、この景色が見られることはないと思います。

◎あぶり

三日目からは、あぶりにはいります。初期においては、二度ほど作品が割れやすい温度帯があるとされています。この時期、急速に温度を上げることは割れの危険を伴います。私は、200℃くらいまでは一時間に3℃ずつあげ、その後も5℃ずつ上げるようにしてあぶります。400℃前後までは、作品と窯の湿気を完全に抜く時期でもあるので、もせ穴を適宜調整して湿気を抜くことが重要です。

◎中焚き

4~500℃の間で、上口を開けます。それまでは下口のみ焚いてましたが、その上にある二つ目の口を開け、薪を投入して温度を上げます。この温度帯からは中焚きに入り、上下二つの焚口から薪をくべます。一時間に7~10℃位あげていきます。

◎本焚き、横焚き

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800℃位からは本焚きに入り、上下の口から投入する薪の量もかなり多くなります。温度も一時間当たり10~15℃位あげていきます。1150℃に達したら、ねらしに入ります。ウドと呼ばれる窯内部の一番手前付近の温度を、1150~80℃位にキープし続けます。同時に横焚きが始まります。窯の側面にある、一番から始まる焚口に薪をくべ焼き上げていきます。私の窯の場合は八番まであるので順次開いて焚いていきます。二日間くらいかけて横焚きを完了します。

窯の前面が1150℃に達しても、後方の八番付近は600℃位です。前方が焼きあがっていても、後方はまだまだです。縦に長い窯なので、順次横の焚口を開けてねらしを行い、全体を焼き上げていくのが横焚きです。

◎火止め

火止めのタイミングを見極めることは、かなりの経験が必要となります。ゼーゲルコーンといった熱量を測定するピースで焼き上がりを見る方法もありますが、大きな窯や薪窯では不向きと考えています。色見と呼ばれる備前土で作ったピースを、複数のポイントに設置し、何回かに分けて取り出していき、焼け具合を確認するのが、今のところ最適と考えます。十分な焼けと判断できれば、焚口から直に中の様子も確認し、火止めするかどうかを判断します。
火止めの時点で、確実に狙ったように胡麻が溶けていることが重要ですが、窯の場所ごとに微妙な温度差があり、全体を完璧にすることはなかなか難しいと思います。かといって逆に焼きすぎると、作品が膨れるなど失敗に終わるため、微妙な加減が重要になります。
私は、窯焚きの初期にガスバーナーを使用することには反対ですが、最後の微調整にガスバーナーを使用できるなら、有効であると考えています。



窯出

窯出

窯焚きが終了すると、窯の中の空気が還流しないように焚き口を全てふさぎ、徐冷します。通常窯焚き期間とおなじくらいかけてゆっくりさまし、窯を開きます。

備前土は、急速に冷却すると割れることが多いので、いわゆる冷め割れを防ぐためにゆっくりと覚まし、窯出しをします。